遺言能力・遺言無効Q&A


Q 遺言が無効になる場合はあるのでしょうか?

遺言が無効になる場合として、以下のような場合があります。

①遺言書に日付がない(民法968条1項)、または日付が特定できない場合

②遺言者の署名・押印がない場合(民法968条1項)

③内容が不明確な場合

④訂正の仕方を間違えている場合(民法968条2項)

➄遺言が共同で書かれている場合(民法975条)

⑥認知症などで、遺言能力がなかった場合

⑦相続人に強迫された、または騙された場合(詐欺・強迫による遺言)、遺言者が勘違いをしていた場合(錯誤による無効・要素の錯誤)

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民法第968条 

1 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。2 前項の規定にかかわらず,自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第978条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については、自書することを要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない


Q 日付の記載として「●年●月吉日」との記載の遺言は無効でしょうか?

「●年●月吉日」との記載は、具体的に日付が特定できないので無効な遺言になります。ただし、具体的な日付でなくても、作成日を特定できる記載方法(例えば、「●年●月末日」など)は有効な遺言となりえます。 


Q ペンネームや芸名での署名でも有効な遺言となるのでしょうか?

署名については、通常、戸籍上の氏名を記載することになりますが、遺言者との同一性を立証できる場合には、ペンネームや芸名での署名も有効とされています。 


Q 認印や拇印でも有効な遺言となるのでしょうか?

押印は、実印の押印を必須とされていませんので、認印や拇印も可能です。ただし、認印の場合には、被相続人が作成した遺言書なのかについて、その有効性が疑義が生じる場合もあるので、実印で押印することをお勧めします。


Q 「銀行預金を子供たちに相続させる。」旨の内容の遺言は、有効でしょうか?

遺言書は、「どの財産を誰に相続させる」という遺志を正確に記載しなければなりません。

例えば、「銀行預金を子供たちに相続させる。」といった内容では、どの銀行の資産なのか、どの子供に相続させるのかといった特定がされていない為、無効となります。したがって、遺言内容については、「△△銀行△△支店 普通 口座番号△△△△ 名義人△△△△ の銀行預金を 子○○に相続させる」など、内容を明確に記載をする必要があります。


Q 修正液で訂正した遺言は無効になるのでしょうか?

修正液を使って修正をすると、その部分については無効になる可能性があります。

遺言書の訂正は民法で決められています。つまり、民法968条3項は、「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。」と定められていますので、その方法に従わない遺言は無効になります。

⑴ 変更場所の指示

変更場所の指示とは、変更する場所を示すことです。例えば、文字を追加する場合は } などの記号を用いた上で場所を示します。削除する場合は、その個所に二重線を引いて示します。文字の訂正、置き換えは、この削除と追加を組み合わせて行います。二重線を引く際は、原文がみえるようにすることをお勧めします。

⑵変更した旨を付記して署名

変更した部分の外の余白に「本行○○字加入▲▲字削除」と付記したり、また、遺言書の終わりの部分の余白に、「本遺言書第1項第●行目『○○』とあるのを『▲▲』と訂正した」と付記した上で署名をします。 

 ⑶変更場所に押印

追加、削除、訂正した箇所に印を押す必要があります。 


Q 夫婦で共同で作成した遺言は、有効でしょうか?

夫婦共同遺言は無効となります。

共同書面の遺言書作成は民法で禁止されています(民法975条)。遺言書は、遺言者の自由な意思で作成・撤回できるとされていますが、仮に、共同で作成すると互いに自由に撤回することができない可能性もあるので、共同遺言は禁止されています。 


Q 遺言時に認知症になっていた場合、その遺言は無効でしょうか?

「遺言能力とは、遺言者が遺言事項の意味内容、当該遺言をすることの意義を理解して、遺言意思を形成する能力」(横浜地判平成22年1月14日)とされています。そのため、遺言者が、遺言内容やその効力を理解できる能力を欠いていた場合には、「遺言能力無し」として遺言書が無効となります。

ただし、認知症=遺言能力無しとは当然にはなりません。

東京地判平成16年7月7日は、遺言者が脳血管性痴呆により遺言能力を欠いていたとして、自筆証書遺言が無効とされた事例において、『遺言には、遺言者が遺言事項(遺言の内容)を具体的に決定しその法律効果を弁識するのに必要な判断能力(意思能力)すなわち遺言能力が必要である。遺言能力の有無は、遺言の内容、遺言者の年齢、病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移、発病時と遺言時との時間的関係、遺言時と死亡時との時間的間隔、遺言時とその前後の言動及び精神状態、日頃の遺言についての意向、遺言者と受遺者との関係、前の遺言の有無、前の遺言を変更する動機・事情の有無等遺言者の状況を総合的に見て、遺言の時点で遺言事項(遺言の内容)を判断する能力があったか否かによって判定すべきである。』としています。

そして、遺言者が遺言能力を失っていたと思われる時期に遺言が作成されていた場合、当該遺言は遺言能力を欠いた者によってなされており無効であるということを主張することができます。


Q 認知症により遺言の無効が認められるためには、どのような手続きや証拠が必要でしょうか?

認知症により遺言の無効が認められるためには、裁判所に申し立てをする必要があります。具体的には、「遺言無効調停」または「遺言無効確認の訴え」を申し立てる必要があります。前者は家庭裁判所、後者は(管轄は家庭裁判所のようにも思えますが、実際は)地方裁判所に提起することになります。

裁判で主張が認められるためには客観的証拠の存在が不可欠となります。具体的には、カルテ、診療記録その他各種医療記録を提出する必要になります(裁判では、遺言の無効を主張する側がこれらの証拠を揃える必要があります)。

特に、公正証書遺言の場合には、いわゆる長谷川式簡易知能評価スケール等だけでは無効とは言えないと判断されることも多く、医師の所見等が必要となる場合もあります。


Q 遺言の無効の主張は認められることは難しいのでしょうか?

結論から申し上げますと、遺言の無効主張が認められることは、容易とは言えないと考えます。

すなわち、自筆証書遺言の場合であっても、①遺言に、遺言者本人の印鑑が押されている事実があると、この印鑑は、本人の意思に基づいて押印されたものであると推定されます。(これは経験則に基づく推定【一段目の推定と言われます】)。津國、②本人の意思に基づいて押印された遺言の事実があると、その遺言書は、真正に成立している(これは、民事訴訟法228条4項に基づく推定【二段目の推定といわれます】)とされます。

したがって、遺言の無効を主張する場合、二段の推定を覆す必要が生じることが多いため、容易とは言えない裁判と考えます。

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民事訴訟法228条4項

「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」

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宮崎はまゆう法律事務所・社労士法人はまゆう宮崎はまゆう社労士事務所

弁護士・社会保険労務士 梶永 圭(宮崎県弁護士会・宮崎県社会保険労務士会)